５．ともだちひゃくにんできるかな
「しぇーんろはつぢゅくーよー、どーこーまーでーもー、のーをこえやまこーえーたーにーこーえーてー」
「そうそう、で、続きね。はーるかな町まーで、僕たちのー♪」
「はーりゅかにゃまちまーでー？」
「そうっ！！ パウン、ほんとにお歌上手だねえ」
「みゅ〜。ほめられたの〜」
結局、パウンとスキンブルは仲良くお歌のレッスンを始めていた。パウンの方はタンブルにひっついているが、他の仔猫たちが横からちょいちょい手を出してなでなでしていたりする。パウンちゃん至福のひとときであった。
「良かったな、パウン」
タンブルの方も一緒になって喜んでいた。所詮は兄バカである。
「おにーたん、しぇんろってなに？ ぱうんしらにゃいの」
「えっ…」
タンブルの顔が一瞬引きつった。誰が見ても分かる、「やばい！！」という顔である。
そしてスキンブルは、対称的に顔を輝かせていた。
「あのねパウンｖ 線路って言うのはね、列車が走っていく道なんだよ！ 列車って言うのは大きな鉄の箱で、その中に人間をいっぱい乗せてどんどん走るの！ すっごく楽しいよ、パウン一緒に乗らない？！」
「スキンブル！！ うちの弟に変なことを教え込まないでよ！」
「変なことって何だよー。列車に乗るのすっごく楽しいのに！」
「それはスキンブルだけの特権なの！！ パウンは列車には乗りません！ て言うか乗せません！」
「絶対面白いのに…」
「絶対ダメ。パウン、人間がいっぱいいるところへ連れていったりなんかしたら、喜んで興奮してはしゃぎまわってとんでもない騒ぎになるんだから…」
兄は弟をよく知っていた。
「知らない人がいっぱいいてハイになるのって犬じゃないの？」
ミストが無意味なことを呟いた。
「猫でもいるんだよ」
「…うん。なんか分かるけど」
今の状態を見れば。
「タンブル、パウンってすっごく賢いね！！ 教えたらすぐ憶えるし！」
「ぱうんかしこい〜？」
周りの仔猫たちに誉められたパウンは有頂天になっていた。
「ぱうんかちこいの〜」
「あ〜。可愛いよぅ…」
「…スキンブルって子ども好きだったんだねー。知らなかった…」
「いや…スキンブルって基本的に誰でも好きだよ。自分より大きかったら甘えて、ちっちゃかったら可愛がるって回路が出来てるんだよ、きっと」
「あー…すっごいありそう…。羨ましい性格…」
さっき意気投合したタンブルとミストの勝手な推測は、多分あんまり外れてはいなかった。
「ね、ね、ミスト、パウンにマジック見せてあげてー」
「ええ？！」
「まじっくってなぁにー？」
「魔法のことだよ♪」
「まほうー？ みしゅとおにいちゃんまほうつかえるのー？！ しゅごいのしゅごいのー！」
「スキンブル！！ これ以上話をややこしくしないでよ！！」
「タンブル。パウン、眠そうだぞ」
散々騒いだパウンが目をこすり始めたのを見て、マンカストラップが声をかけた。
「ああ…パウン。眠たかったらおうち帰ろうか」
「みゃ……へいきだもん…ぱうんまだあしょぶもん…」
パウンは既にこっくりこっくりしながら言った。
「ってお前、既に半分寝てるだろ。ほら、また遊べるんだからおうち帰ろう」
「やだぁ…まだあしょぶの…ふにぅ……」
「寝てるっての…」
「可愛い…」
「スキンブル、『可愛い』以外にボキャブラリー無いの？」
「だって、パウン可愛い」
「…まあ……いいけどさあ」
タンブルブルータスはパウンシヴァルを抱き上げた。愛する「おにーたん」にだっこされたパウンは、とろけそうなほわ〜とした笑顔になった。眠いけど幸せらしい。額縁に入れれば「幸福の姿」とか題を付けて飾れそうな姿だった。
「ふに〜…おにーたん…」
「うーん。麗しい兄弟愛の姿ですねー」
「美しいですね。愛の象徴とでも言うべきしょう」
「何言ってんのふたりして…」
ミストとマンゴジェリーのアホな会話にタンブルはジト目で突っ込んだ。
「あ。パウン寝ちゃったから今のうちに言うけど、スキンブル、ほんとにうちの弟に妙なこと吹き込むのやめてね」
「変なことじゃないもんっ！ パウンが乗りたいって言ったらタンブルだって止めちゃ駄目だもーん」
「スキンブルが教えなきゃ言い出さないッ！」
「む〜」
時ならぬ睨み合いに終止符を打ったのは、可愛いあくびだった。
「ふぁ〜〜…おにーたんたちけんかにゃの？」
騒ぎに起きたらしいパウンが、半分寝てる顔で訊く。
「喧嘩じゃないよ〜。お兄ちゃんはね、この茶色いお兄ちゃんがパウンに悪影響を与えないようにきちんと指導してるだけだからね」
「指導って何だよー！ て言うか悪影響ってどういう意味？！」
「パウン、猫として生きる以上自分というものをしっかり持たなきゃダメなんだからね。周りのいい加減なひとに馬鹿な影響受けて、自分の生き方を見失っちゃいけないんだよ。パウンはそんな馬鹿なことしないよね？」
「にゃ…よくわからにゃいの」
「ひどいーひどいー」
「…スキンブル…どっちかというとタンブルの言ってることの方が正しいと思うよ、僕は」
「どーゆー意味ミスト？！」
「良いんだよ、今すぐに分からなくても、必ずいつか分かるからね。パウンならきっと」
「ぱうんわかりゅの？ ぱうんえりゃい？」
「偉いよ〜。パウン賢いもんね〜」
「タンブル兄馬鹿ー。パウン、こんなお説教お兄ちゃんより僕と遊ばない？」
スキンブルが横からパウンを奪おうとした。
「何すんだよスキンブル！ パウンは僕の弟なんだからねっ」
「にゃぁ…ぱうんおにーたんだいしゅきにゃの」
麗しい兄弟愛である。
「ぱうんねむたいの〜…おにーたんもいっちょにねりゅのー」
しかしパウンは兄弟愛以上にマイペースだった。
「え？」
「おにーたんといっちょにねてたらあったかいのー」
「一緒にって…お兄ちゃんこれからみんなと遊ぶんだけど」
「ぱうんおにーたんといっちょにねたいの」
「…またわがままを…」
「パウン、お兄ちゃんはみんなと遊ぶんだからわがまま言わないの。ついさっき言っただろうに」
「トリか、お前は…」
ミストフェリーズとマンカストラップとラム・タム・タガーが口々に言った。タガーはさっき紹介されたとき、首周りと頭の毛を「ふあふあにゃのー」とか言って思いっきり引っぱられたのがかなり不満だったらしい。
「いいよ。僕も寝る」
「タンブル寝ちゃうのー？」
「…最近パウンが毎日毎日騒いで寝不足気味だから寝られるときに寝とく」
哀しい兄であった。しかし弟は、兄の苦労など知っちゃいなかった。
「わ〜い。おやしゅみなしゃいにゃのー」
「はいはい…」
ふたりで土管の中に入ると、パウンはタンブルに半分しがみついたままで丸くなった。ますますゴムまりに似ていた。タンブルはそんな弟の横に丸くなる。可愛い。
「僕も寝るーっ！！ パウンの隣！」
やたら騒がしい声とともに茶色い毛玉が転がり込んできた。そしてパウンをタンブルと挟む位置に強引に寝た。
「何、スキンブルも寝るの？」
「寝る！ だってパウンと一緒に寝たらあったかそうだもん」
「スキンブルも大概あったかいと思うけどなぁ・・・」
常にテンション高いし。基礎代謝多そうだし。絶対体温高そうだし。
「じゃあ僕もー」
ミストがそう言ってタンブルの隣に入り込んでくる。
「あたしも寝よっかなー」
ランペルティーザ。当然マンゴジェリーがその隣に一緒に来る。
まあ猫は一日の三分の二近くを寝て暮らす生き物である。いくらでも寝られるのであろうが。
「何だ…みんな寝るのか？」
仔猫たちはいきなり寝る気になったらしく、みんなして土管の中で固まってだんご状になって寝始めた。動物好きの人間が見たら卒倒するほど可愛らしい光景であったが、残念ながら見ているのはマンカストラップとラム・タム・タガーその他おとなの猫たちだけであった。
「良いんじゃねーの？ 静かだぜ」
「まあ、そうか…」
おとな達はあっさりその事態を受け入れ、思い思いの場所でのんびりと寝そべったり顔を洗ったりし始める。
上弦の月がいつになく静かなゴミ捨て場を照らす。
「もうすぐお祭りだし・・・俺も体力付けとくか」
マンカストラップは月を見上げると、そう呟いて自分も古タイヤの上に寝そべった。
「にゃあ…ぱうんおにーたんといっしょにあしょぶの……おつきさままでとんでくの…」
彼の耳に、土管の中の仔猫だんごの中からそんな呟き（寝言）が聞こえてくる。
平和な夜であった。
＜了＞
≪あとがき≫
馬鹿話第二段。パウンちゃん公園デビュー篇（爆）。
パウンちゃんシリーズ第１段『猫注意報（笑）』の、ちょっと前のお話です。
タンブルは苦労性のお兄ちゃんという地位を確立し（したくないだろうが）、ミストはつっこみキャラとして目覚め、パウンとスキンブルはますます好き勝手に暴走しています。
ぱうんちゃんシリーズの方向性、決定です。
…うーん…。
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