ジェリクル・リーダーとはなんぞや　◇◆

　『キャッツ』には、ジェリクル・リーダーという言葉が出てきます。
　初めて『キャッツ』のビデオを見たとき、思いました。
　ジェリクル・リーダーってなに？
　動物の世界でリーダーとかボスといえば、それはその群やテリトリーの中で一番強いやつです。その動物の生態によってやることは違えど、ともかく一番強いやつが他を従えるというのが野生というものです。
　ミュージカル『キャッツ』に登場する猫の中でそういう立場にいるのはマンカストラップですが、劇中で「リーダー」と呼ばれているのは彼ではありません。
　そう呼ばれているのは、オールド・デュトロノミーです。
　これはいったいどういうことなのか。
　オールド・デュトロノミーはどう見ても喧嘩が強そうには見えません。昔どうだったかは不明とは言え、あのお歳で若い連中に勝てるとは思えない。歌詞でも足が悪いと言われています。そういう猫は、年寄りとしてある種の尊敬を受けることはあるかもしれませんが、リーダー・ボスになることはあり得ないでしょう。なのに、マンカストラップは彼を「ジェリクル・リーダー」と呼んで敬っています。
　つまり、「ジェリクル・リーダー」とは、普通の意味でのリーダーとは違うものと思われます。
　そう考えると、劇中のデュトロノミーの立場は非常に特殊です。他の猫たちは「ただ一匹のジェリクル」に選ばれる立場なのに、彼は選ぶ立場なのです。明らかに、他の猫たちとの間に超えられない一線があるのです。
　『キャッツ』と『コーラス・ライン』を対比した劇評を読んだことがあります。オールド・デュトロノミーの立場は、『コーラス・ライン』におけるザックに対応します。彼らは一種の神様の場所にいるのですね。根本的に立っている場所が違うのです。
　それがジェリクル・リーダーなのですね。ジェリクル・リーダーとはそういうものなのですね。なるほど。
　しかし、ここでまたぞろ疑問が湧いてきます。
　何故彼はそんな立場にいるのか？　それは謎です。
　何故彼は一方的に転生する者を選べるのか？　それも謎です。
　それは裏を返せば、自分自身を選ぶことは出来ないと言うことではないのか？　謎だらけです。
　この謎が、『キャッツ』の魅力のひとつでもあるのでありましょう。

　いくつもの生を生きてきたと言われるオールド・デュトロノミー。
　彼がいつか昇天することはあるのでしょうか。そうなったら「ジェリクル・リーダー」の地位は誰が継ぐのでしょうか。やはりマンカストラップなのでしょうか。もし「ジェリクル・リーダー」になったら、軽く２００年は死ねないようですが、さてあとを継いでくれる猫は現れるのでしょうか……。


　以上、お読み頂き有り難うございました。（2005.1.15）


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