レ・ミゼラブル ２０１５年８月１８日（火）昼公演１３：００〜
梅田芸術劇場 三階席
ジャン・バルジャン：福井晶一
エポニーヌ：笹本玲奈
コゼット：若井久美子
テナルディエ：KENTARO
アンジョルラス：上原理生ジャヴェール：吉原光夫
ファンティーヌ：知念里奈
マリウス：田村良太
テナルディエの妻：谷口ゆうな
ガブローシュ：興名本陸
大変楽しみだった福井バルジャン、以前ジャヴェールで拝見しましたが、果たしてバルジャンだとどうなるのか。いやあ、男前で素晴らしく美声で良かったです！
ふたばが前回、「吉原さんのジャヴェールはちょくちょく身だしなみを整えている」と言っていたので、今回ねちこく観察させていただきました。……本当だ。ちょくちょく、髪の乱れをなでつけるような仕草をなさっている。手袋を直したりもしている。うむ。服装の乱れは心の乱れですよね。さすがジャヴェール。
■プロローグ
囚人たちの様子を上の櫓（？）から監視しているやたら存在感のあるお方を双眼鏡でじっくり見ておりました。何か書類を確認していると思ったら、あれがバルジャンの仮出獄許可証だったわけですね。ほんと、常に仕事をしている人ですね。
バルジャンの「自由なのか」に対する「違う」が、ぴしゃりと叩きつけるような強い調子。ここもいろんな言い方があるものです。
で、バルジャン。
……男前っすね！ 今回、三階席のため双眼鏡でがっつり見させていただいたのですが（嫌な客だよ）、衣服はボロボロで顔も汚れ、額の辺りに傷があるよう……でありながらやっぱりしっかり男前ですね！ 顔も声も素晴らしく正統派ですね、素敵。その顔活かしてもうちょっと楽に生きられんかったか。
福井バルジャンはとても「普通の人」という印象を受けました。特別なところなど何もない、普通の人。ただ貧しくて苦しくて、ほんの出来心から転落して───という、本当に誰にでもほんの少し間違えればあり得る物語。うん、原作の彼もそうですね。良い……。
で、司教様に許された後、呆然とした顔で燭台をぎゅっと握りしめていたのが泣けて泣けて。「生まれ変わるのが神の御心か」で、取り乱していた表情が前を向くものに変わるのがまた！
で、仮出獄許可証の破り方が、一回で真っ二つ、だったのがちょっと印象的でした。ちょっと思いきりよすぎという気はしましたが、バルジャンの決意を示しているように思えました。でも、そのままで捨てたら一発でばれるから、もっと細かくちぎるか燃やすか川に流すか、きちんと処分はしましょうね。
■一日の終わり〜夢破れて
工場長……ファンティーヌをクビにするとき、後ろから抱きすくめて「この淫売」って言ってるんですね……まあ、後の展開がなあ……。
ツッコミはもう置くとしまして、今回、ファンティーヌは今でもトロミエス（コゼットの生物学上の父親）のことを好きなのかな？と思いました。「待ち続けてるわ」が本気に聞こえたのですよ。
もちろん、彼女もそんなことはあり得ないとちゃんと理解してはいるんだけれど、愚かな幻と痛いほど承知した上で、それでもかつて本気で彼を愛していた頃のことを、本当に「幸せだった」と思っているのではないかなと。彼が戻ってきてくれて、コゼットと三人で幸せに暮らせるという夢を、今でも捨て切れてはいなかったんじゃないのかなあ。未練と言うには純粋に見えて、何かこれはこれで哀しいなと。
■ラブリィ・レイディ〜ファンティーヌの逮捕
……バマタボワは少なくとも最初のうちはさほど酷いことはしていないように見えたんですが違うのでしょうか。多少乱暴に絡んだ、程度に見えたのですが……ファンティーヌって強気に出る相手をことごとく間違ってますよね。こんなところまで来てから暴れるくらいならクビになったときに工場長に平手打ちでもいれとけば良かったのに。まあ、バマタボワも酷い奴であることに違いはないんだけど。
ジャヴェール、やっぱりファンティーヌの懇願に一歩も動かず。良い。すっごく冷たい。そして特に声を荒げるわけでもないのに迫力あり過ぎて怖い！
その場に崩れるように泣き伏すファンティーヌが哀れです。ジャヴェールの言うことは全くの正論なんですが（と言うか、彼は常に正論しか言っていない）、正論過ぎて情け容赦というものが欠片もないため、さすがに彼女が可哀想になってきます。この私が。（笑）
馬車の暴走。これはやっぱり、ジャヴェールは気付いていますよね？
膝を突いたバルジャンに手を差し伸べて見下ろした状態で「貴方を見て思い出す」。多分、バルジャンもこのとき、同じ体勢で見つめ合ったことを思い出している……というのは私の妄想入っていますが、そのまま助け起こして手を放さないまま、「仮出獄で逃げたが」でぎゅっと力を入れた……。そして、はっとしたように緩めて「市長、失礼を」。
「私はそのバルジャンではないのか」という市長に対し、「そいつのことなら」からじっと顔を見つめたまま言い、服を着せかける間もじっとバルジャンを見ていて、「奴はきっと白状します」はほとんど顔を覗き込むような姿勢に見えて、「証拠がないから告発は出来ないけれどほぼ確信している」ようにしか思えません。
身代わりが逮捕されたという話も、もしや揺さぶりかけて自白を引き出すためのハッタリだったりせんか、とまで思ったよ。さすがに彼はそんな嘘は吐かないでしょうけど。
市長殿は、ジャヴェールのことを知っていることを、うっすらとでも態度に出していたんじゃないのかな、と思いました。もちろん露骨に怯えたり避けたりはしないだろうけど、ジャヴェールが「何故か苦手に思われている」と感じるような雰囲気があったんじゃないかな？ 「私はそのバルジャンではないのか」、何だか追い詰められてつい言ってしまったように見えましたよ。
■バルジャンの独白
お前途中まで本気でバックレるつもりだっただろう。（断言） と、福井バルジャンには思いました。
迷ってますね。まあここは逡巡して当然なんだけど、にしても、逃げる気満々だっただろう。（決めつけ）
でもそこが良いです！ そうだよ、迷って当然だよ！ 神がどうとか、過去の諸々など関係なく、これは本当に普通の、当たり前すぎる普通の反応だと思うのです。今回素直に思えました。
だってこれまで必死になってがんばってきたんだ、その結果ここまでになれたんだ、背負っているものだってあるんだ、今更ふいにするなんて……。そりゃそう考えるよね。うおお、これだけバルジャンに感情移入できることって珍しいぞ！ 我ながら酷いな自分！
で、やっぱり裁判所での告白を聞いたジャヴェールはさほど驚いているように見えない。動き出すのもゆっくりで、「知っていた」ように見えます、はい。正直、この方が好みです。
■対決
現れたジャヴェールが、「追い続けたぞ」で持っていた手錠の鎖を聞こえよがしに音を立てて落とすのがかっこいい。そして怖い。こんな威嚇の仕方ってありか！ そういえば、原詩ではこの台詞、「お前はまた鎖に繋がれるのだ」と言っているんでしたね。なるほど。
そして、福井バルジャンはかなり体格が良いので、ジャヴェールが負けるのがさほど不思議ではありません。と言うか、どっちも強そうだよ！ 殴り合いが迫力だよ！
思いっきり殴り倒された警部が、そのまま昏倒したのか動かないんですが……容赦ないなあ、バルジャン。ジャヴェールは私怨でバルジャンを追っていたわけではないけど（そんなことは考える人ではないです）、そうなっても何もおかしくないことをしているぞ……。だからあんたって人は……。
■宿屋の主人〜裏切りのワルツ
あんた方夫婦は挽肉機に何を入れてるんですかそれカナリア？ いいの、それ？ 攻めて羽はむしってからにするべきでは。
しかしまあ、とりあえずこの身も蓋もないロクデナシっぷりが大層楽しいのは文句なしなのです。
……ところでマダム、「この我慢を神様ご存じだ」と言いながら包丁をバンバン叩きつけるのは、ちょっと真剣に怖いですよ。
バルジャン、森の中で出逢った少女がコゼットと知ったときの「コゼット……！」という声がとても嬉しそう。あ、この人、良いパパさんになるわ……。
そして宿に現れたバルジャンに脚を見せたりして誘惑しているつもりらしいマダムが。全く相手にされていないけど。むしろ明らかに嫌そうな顔をされているけど。（笑） 最初に何だかバルジャンが咳き込んでいたのも、良く分からないけど香水が臭かったりしたんでしょうか？
ところで、出ていく前に行きがけの駄賃みたいにテナルディエを締め上げる辺り、やっぱり基本暴力にためらいのないお方ですよね、この人。
■パリ
よっし上原アンジョルラスもかっこいいわ！ すごく強い声で華があって実にカリスマです、素晴らしい。あとしっぽ可愛い。
エポニーヌ……モンパルナスに言い寄られて、肘鉄どころか蹴り入れてましたね……。しかも、おそらくは彼から掏り取ったと思われるナイフを突きつけていましたね。ガブローシュに「すげえ度胸」と言われるだけのことはあります。
「大した本だね」から、本を取り合って遊んでいるエポニーヌとマリウスが可愛いです。エポニーヌ、さっきのモンパルナスに対する態度と同一人物とは思えません。それでこそ女です。（おい）
今回の田村マリウスはさほど彼女と身長差がないため、子どもふたりでじゃれているように見えました。さすがに年齢的にそれはどうなのか。お前は二十歳過ぎてるだろうマリウス。
「分かってないのね」でエポニーヌが本を投げ出すのは、そういう演出なのかな？ あれだけは！ 本好きとしてあれだけは許せない！ いくらエポニーヌが可愛くても！
笹本エポニーヌはちょっとやけっぱちっぽいというか、結構初めから「どうせね、分かってもらえないのよ」と思っていそう。僅かでも期待したりしていない感じがありました。うう、不憫だなあ。
ジャヴェールは本当に素晴らしい迫力。「誰が教えたか」と部下の警官の拘束を抜け出してすり寄っていったテナルディエが、すっと視線を向けられただけで思いっきり縮み上がり、「ご存じ、で、しょ、が……」と戻っていったよ。（笑） やるな。
■スターズ
か……っこいい……っ！！
このシーンは舞台にジャヴェールしかいないため、もう躊躇なく双眼鏡で追い回していました。正直、自分で自分にドン引きです。でも見る。格好良いから。
背中見せて歌う新演出、良いなあ。男は背中で語るのよね。跪いて両手を広げるのが演出の動きなのか役者さんがそれぞれ自由にやっているのかは分からないけれど、いずれにしても良いなあ。
最後に警棒をビシッと構えてかかとを音高く鳴らした姿に本気でクラクラしました、私、本当にジャヴェールが好きだなあ。つくづく惚れ惚れします。
■ABCカフェ〜人民の歌
いやー、アンジョルラス良い声ですね。口を開いた瞬間に空気を変える声ですよ。かっこいいわー。
マリウスの色ボケネタに関しては、「何を言っているんだ」と呆れている模様。うん、「分かるけれど」が大嘘なのは元から鉄板なんですがね。（笑）
マリウスの「彼女は幻」から周りがふざけている間、しばらく完全無視して誰か（多分コンブフェール……ですね）としゃべっていました。（まだ新演出版の学生さん達が把握出来ておりません…）
ところで、グランテールが『赤と黒』恋愛バージョンで「レッド！」と合いの手を入れつつマリウスを指し、「ブラック！」でアンジョルラスを指したのは……。えーと……。
グランテールも面白かったです。「こいつはまるでオペラ」でマリウスとチャンバラごっこをしてふざけていた彼は、勢いでアンジョルラス（呆れたように眺めていた）に触れかけ、視線を向けられ、「あっ……」みたいな感じで引っ込みました。ちょっと可愛かったぞ。で、そこからアンジョルラスが「今が決断をするときだ」と仕切り直す展開。
どうも血気盛んすぎる仲間が多いのか、彼の演説がむしろ「落ち着いてよく考えろ」と言っているようでした。本来彼こそが先頭に立って暴走する人なのにね。（笑）「兵隊も武器も豊富だ」とかに反論している奴がいるようでしたよ。
そして、ラマルク将軍の死が告げられ、一気に仲間たちが蜂起へと突き進む中、ひとり少し離れた位置で「ああ、とうとうこのときが来てしまった、もう戻れないんだ」という顔をしていたグランテールが、良い。うん、来て欲しくなかったよね、あらゆる意味で。
■プリュメ街
マリウス君は「君のおかげだよ」でエポニーヌのほっぺたを摘んでいました。無邪気って罪だなと心から思います。
コゼットは結構自我のしっかりした女の子に見えました。バルジャンが過去を教えてくれないのに対し、かなり素直に不満そうな顔をしています。「もう大人よ」が口だけじゃなさそう。彼女も割と偏った育ち方をしていると思うのですが、意外とちゃんと普通の意味で良い子ですね。
ところで、新演出ではマリウスが歌い出してすぐにコゼットが一旦引っ込んでしまうため、彼はしばらくひとりで歌っているわけで。「ああ、君の名前も知らない、教えて」とか言っているときにコゼットは聞いていないわけで……（笑）ちょっと間抜けですね。
門を挟んで見つめ合うコゼットとエポニーヌに、マリウスは気付いてねえんだろうなあ。あ、今回はそれほど抜け目なく門を閉めたようには見えませんでした、はい。（笑）
■ワン・デイ・モア
いいなあ……！ このシーン、何度見ても鳥肌立ちますね！ 「歌を聞いたか」と「明日は裁きの日」で毎度毎度拳握ります。
すみません、でも基本ジャヴェールを見てました。意図的に彼の歌を聴いていました。かっこいいわああ。お祈りなさってますねー。
しかしアンジョルラス良いなあ。ここの彼は「嵐の日まで」でぐっとその場の空気を掌握する必要があるわけですが、それが出来る強い声が嬉しいです。いやー、かっこいいわー。ついて行きそうになるわー！
■バリケード
ガブローシュ、ジャヴェールが「俺には分かる」と言い出した辺りで既に彼の正体に気付いていますね。追いかけていこうとしていましたよ。さすがだ。
エポニーヌの「分かってくれない……」がすごく可哀想……ですが、やっぱり「そうよね、分かってたわよ」感が。くそー。マリウスのばかー。（もうどうあってもここへ行きますね、すみません）
■オン・マイ・オウン
エポニーヌがバルジャンに「坊や」と呼ばれて帽子を取って髪を見せるのは演出なんでしょうか？ 何か、健気で良いですね。で、バルジャンが手紙を盗み読む様子は見なくなったんですね。
オン・マイ・オウンで「知ってる、夢見るだけ」と言うよりずっと前から、マリウスが自分を見てはくれないことを「知っていた」感のあるエポニーヌですが……それでもここまで尽くす乙女心がほんと泣ける。
マリウスには何も期待できないから、コゼット！ あんたが気付くんだ！ 彼女はエポニーヌのこと、思い出してくれるんですかね。あの見つめ合いから見て、多分うっすらとでも憶えていると思うんですが。
■バリケード
「嘘つき！」でガブローシュをたしなめようとしているのはグランテールですか？ そうだったのかね。
よく見たら、アンジョルラスが最初にジャヴェールに飛びかかっていますね。リーダー、素早いな。
しかしやっぱりでっかいジャヴェールが圧倒的に強そう。「好きなときに撃て」と言いながら堂々と迫ると、どう見てもアンジョルラスが気圧されています。後ろから仲間が三人組み付いて押さえつけようとしているんですが、ぶら下がっているようにしか見えません。ジャヴェールが軽く腕でも振ればまとめて転がりそうですよ。
警部殿ー！ 多分分かってるだろうけど、その、今前にいる赤いベストの男がリーダーです！ そいつ殺ったらこの暴徒集団、瓦解しますぜ。砲撃とかよりその方が早くないか！（笑）
うん、「警部」というのは現代日本警察の職階だと現場で指揮を執る責任者くらいの階級で、他のシーンでの様子を見てもジャヴェールの地位もそれくらいだろうし、そんな立場の人が何で自ら潜入捜査をと思っていたけど（そもそも暴徒の中心は学生なので、もっと溶け込みやすい若い警察官を使う方がやりやすいはず）、警部が一番強いからなんですね！ ……と前回も思ったけど今回も強く思いました。かっこいいです警部殿！ すみません、馬鹿なんです。
■恵みの雨
とりあえず涙。ひたすら涙。
マリウスは途中で助けを呼ぼうとし、エポニーヌが止める、という流れもしみじみ泣ける。エポニーヌが本当に幸せそうなのが何より泣ける！
やっぱりガブローシュが二人の様子に初めに気付くんですね。駆け寄るでもなく、誰かを呼んでこようともせず、ただじっと見ている……遺体が運び去られるときついて行こうとしてグランテールに止められ、エポニーヌの帽子を拾ってマリウスに渡す……その後グランテールに抱きついていました。グランテールもぎゅっと抱き締めていました。
これは姉弟なんだと思って良いですね？ しかしグランテール、お前、確実においしいところを取ってるな。すごくガブローシュを可愛がっているみたいで微笑ましかったんですが。
■最初の攻撃
マリウスはこの後座り込んでいますが、政府軍の攻勢が始まるとやはりアンジョルラスが銃を押しつけ（厳しいっすね、リーダー）、そこで意を決したように割と力強く立ち上がっていました。
考えてみれば彼は元々あんまり物事を考える方じゃないのに、いきなり恋人ができたと思ったら別れなきゃならないわ、暴動に参加することになるわ、知り合いの女の子は自分の腕の中で死んじゃうわ、いっぱいいっぱいになったあげくやけくそになるのも分かりますね。
で。
この席、バルジャンとジャヴェールの「逃がす、殺せ」のやり取りが完全に見切れる！
何てことだ！（警部風に） 痛恨です。うおおお！ でも仕方がないので声だけ聞いて想像力を駆使しようと思います。
吉原ジャヴェールはここでかなり激しく狼狽していますね。「分からんぞ」辺りから混乱状態に近い感じに聞こえます。「殺せ！ 今すぐ！」とはっきり叫んでるぞ、おお。
対するバルジャンは、「違う、それは違う……」という言い方がとても辛そうと言うか、哀しそうでした。「ああ、分かってもらえないんだな……」というのが本当に残念でならない、という風に聞こえました。バルジャンはきっと、ジャヴェールとも「分かち合うもの」があると思っているんですね。
バルジャンの方もジャヴェールのことを何も理解してはいないと思いますが、それでも理解したいと思ったのかな、そう思わせたのは命の瀬戸際でも自らの正義を貫こうとするジャヴェールの態度だったりしたら良いな……と思いつつ、結局この後で「またも職務の奴隷か」だからな。（ぶち壊し）
……ところで、ジャヴェールは「俺を逃がせばまた対決だ」などと言っていて、あたかも「自分さえ殺せばお前は逃げ切れるぞ」と言わんばかりだけど、冷静に考えれば彼が死んだところでバルジャンの身の上が安泰になるわけでは全くないんですよね。
ジャヴェールは私怨でバルジャンを追っていたわけではなく、あくまでも警察官の職務として犯罪者を追っていたわけで、「逃亡犯ジャン・バルジャン」の情報は当然警察組織内で共有されていると思うんですが。「過去を消し俺を消せたぞ」って、過去は消えないでしょうよ。
仮出獄中に許可証を破り捨てて逃走、素性を隠して潜伏し、発見して追求した警察官を殴り倒して逃亡……初めのだけで十分だけど、最低でも公務執行妨害と傷害がプラスされてますよねー。いや、「刺し殺しても」なんて言っちゃってるし、新演出だと鎖で首絞めてるし、傷害どころか殺人未遂になるんじゃないでしょうか。本気でまずいのでは？ あげくに暴動に参加しているところを確認されたとなると、条件だけ並べると結構な凶悪犯ですよ。暴動の部分だけはジャヴェールが報告しなければ知られないだろうけど、何にせよ彼だけ殺したところで大した意味はないですよね。その辺バルジャンはどう思っていたんでしょうか。
……何で私はこの緊迫したシーンに手の汗握りながらこんなことを考えているんだ。嫌ですねオタクは。
■ドリンク・ウィズ・ミー
戻ってきたバルジャンに「よくやってくださいました」と言ったのはクールフェラックなのかな？ ああ、学生の見分けが付かない。グランテールだけは分かるようになったんですが、彼は分かりやすいからなあ。
グランテールのソロはやっぱり絡んで回っている模様。殴り合いそうになっている奴もいました。何より、彼は下りてきたアンジョルラスの顔に思い切り指を突きつけて、正面から「偽りじゃないか」って言いましたよ！ おおお！
ここまで面と向かってアンジョルラスを非難するグランテールはちょっと意外でしたが、そんな彼をじっと見ているアンジョルラスの心情を想像すると胸に迫ります。そこまで言いながらグランテールはちょっと手を振って離れて行ってしまうのですが、これはなかなかすごかったです。んー、これ、グランテールの方が会話を拒んでるよね……。
……が、隅の方へ引っ込んだ後、君はガブローシュに酒を飲ませようとしていましたね？ おいコラ！ 子どもに何てことをするんだこの男は！
■彼を帰して
不思議だ、新バージョンになってからバルジャンにあんまり腹が立たなくなってきた……。（おい） 普通の人っぽいバルジャンだったせいもあるかもしれませんが、この状況でコゼットのためにマリウスの無事だけを祈ってしまう身勝手さも納得できてしまいました。
元々みんな自分でやりたいからこんなところにいるんだし、別に理不尽というわけではないんですよね。せめてガブローシュのことくらいは心配してやれよって気はするけど。あの子は１２歳だよ？ いかに本物の革命闘士でも、そこはそれではありません？
でも、このときガブちゃんはグランテールに膝枕してもらって寝ていてやけに可愛いのです。本当に仲良いんですねこのふたり。
■最後の戦い
ううっ、ガブローシュの死は毎度辛いなあ。「ガブローシュ！」と叫んだのはグランテールかな？
このとき、アンジョルラスが抱き留めたガブローシュをグランテールに託すときにも、きっと何かふたりの間に語り尽くせないような濃密な交流があるんだろうなー。一番「もう戻れない」ということを理解しているであろうふたりだから余計に、あの僅かな時間でも……とアレなスイッチが入りまくりましたすみません。
撃たれたマリウスに駆け寄ってかがみ込むアンジョルラス。その横に立ったグランテールはアンジョルラスの手を掴んで引き起こし、ふたりはしばし見つめ合い……そしてアンジョルラスはグランテールの頬にちょっと触れてからバリケードを駆け上りました。
……うん。妄想じゃねえなこれ。やっぱ良いわーこのふたりの絆。（あの、ほんとすみません）
グランテールは仲間たちの死を全て見届けてから最後に死ぬんですね。原作ではそれはアンジョルラスの役割なんですが。次々に差し込む純白の光をずっと見続けている彼の心情を思うと、もう！ うん、これもいいなあ……！
ところでバルジャンは意識を取り戻してマリウスの息があることを確認した後、ほとんど真っ直ぐ下水道に逃げ込んでいるんですが。探したりしている様子が見えないんですが。
もしや、昨夜のうちにいざというときの逃走経路を見定めていましたか。さすが年季の入った逃亡者。（やめんか！）
しかし、下水道の扉が閉まるよりも早くジャヴェールが戻ってきているので、彼が必死で死体の山を捜索していなければ一発で捕まっていたのではないかと思われます。危ないところだったな。
下水道に気付いたとき、ものすごく悔しそうに足を踏みならしているジャヴェールが、やはりすごく怖いんですが、かなり辛そうにも見えるのです……。
■下水道
テナルディエの「天国見上げても……」に、「ああ、どうせそうなんだよ、神様なんか怖くないんだよ」的な凄みが感じられました。今回は前回ほどぺらっぺらに軽薄な感じには見えなかったなあ。
■ジャヴェールの自殺
ジャヴェールはバルジャンの「あと一時間、済めばすぐ捕まえろ」という懇願に、とっさに耳を塞いで顔を逸らす仕草をしていました。辛そうです。
職務を果たすためにここへ来たけれど内心グラグラに揺れまくっていて、出来ることなら逃げ出したかった、というふうに見えます。何しろバルジャンが「医者へ連れて行く」とか言っている死にかけの若者も立派な逮捕対象だってことに気付いてないくらいですから。（それを言うな）
そしてついに決定的なことをしてしまい、自分で自分に愕然、という感じです。おおお……。
橋の上で、歌いながら欄干をバンバン叩いておいででして、「何故だ！ 何故なんだ！」と混乱の極みの中で叫んでいるかのようでした。十字を切ってお祈りのポーズをして、それでも心が落ち着かない！という様子。
「疑いを知らぬ」と自分で言っているくらいだし、犯罪者に譲歩してしまうなんて本当に夢にもあり得ないことだったんだろうなあ……。積み上げてきた強固なものがここでガラガラと崩壊していくのが悲痛です。うう、だからって死ななくて良いだろうというのがたいていの人の感性だと思うんですが、でもこれが彼なんですよねー！ っくー！！
ところで、「吉原ジャベはちょくちょく身だしなみを整えている」とふたばが言っていたのですが。飛び降りる直前、コートのボタンを留めるんですね。たとえどんなに心乱れても、衣服だけはビシッとしておきたいのでしょうか。髪も軽く整える仕草をしていましたよ。しかし中のシャツはちょっと襟元開いているんですけど、この辺について警部殿に詳しく（黙れ）
■カフェ・ソング
グランテールとガブローシュが一緒にいるんですよね。ここでガブローシュがくっつくならアンジョルラスの方がしっくり来ないかなとも思ったんですが、このふたりもとにかく仲良しこよしで可愛かったから良いか。そういえばガブちゃんの遺体に寄り添ってくれていたのはグランテールだし。
マリウス……やっぱりコゼットの胸に縋り付いて甘えてる……。コゼットが割としっかり者っぽいので、似合いすぎて困ったものです。
バルジャンは、マリウスに自分の秘密を告白するだけしておいて「コゼットには言うな」と頼み、あげくひとりで姿を消して説明はマリウスに丸投げというだいぶと人としても父としてもアレなことをしているのですが、しかし気持ちは理解できてしまうのですね。
福井バルジャンはその辺が本当に「ああ、分かる」という気にさせられる……しかし、しかしだパパ、せめてもうちょっとそれらしい言い訳をマリウスに伝授していってやってくれ。この子に任せたら５分も保たずに洗いざらい白状させられますって！（私はマリウスを何だと）
■結婚式
テナルディエ夫人がウェディングケーキをつまみ食いしたとき、「三つ星だぞ！」という声が……。この時代に……って、そういう問題じゃねえ。（笑）
このシーンはお遊びが多くて楽しいですわあ。オカマの紳士はこの後大丈夫だったんだろうか。つうかテナルディエ、あんたもまさかそういう趣味なのか。
■エピローグ
ここはもう余計なことは言いませんからね。涙。
迎え入れてくれた司教様に対し、バルジャンが静かに深く一礼するのがものすごく泣ける……！！
福井バルジャンは「普通の人が一旦転落して、必死で立ち直ろうと努力し続けることで人を救うようになった」という聖人伝説の一典型のようなバルジャンの人生が素直に納得できる感じなので、なおさらこのラストの救いが泣けます。良いなあ……！
■カーテンコール
途中でね、アンジョルラスがガブローシュを「高い高い」的に持ち上げているのが可愛いなと思っていたら、横でバルジャンがリトルコゼットとリトルエポニーヌをまとめて持ち上げていましてね。パパさん、若いのに対抗してみましたか。そして力持ちですね！ つか可愛い！！
その他、ジャヴェールが両手にちっちゃい花を抱えて（笑）、彼女たちに合わせて下の方で手を振っていたり、バルジャン＋リトルコゼット、ジャヴェール＋リトルエポニーヌで手を繋いではけていったり、やたら可愛かったぞー！
はい。やはり素晴らしいです！ 何か涙が出そうになったのは、必死で双眼鏡覗きすぎて目が疲れたせいかもとも思わなくもないけど、感動したから何でも良いです！
普通の人っぽい福井バルジャン、良いですね。やっぱりちょっと男前すぎるけど！（笑） 堪能させていただきました。
以上、お読みいただきありがとうございました。
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