広島遠征記２００３年８月
広島。
ヒロシマ。
そこは、１９４５年８月６日、世界で初めて核兵器が一般市民への攻撃として使用された土地。それから既に６０年近い年月が流れ、一度は廃墟と化した街は見事復興を遂げ、新たな歴史を作り続けています。
プロメテウスの火、という言葉があります。
ギリシア神話に曰く。プロメテウスは神々の姿に似せて人間を創りましたが、彼らはあまりにも弱い存在でした。身を守るための爪も牙も持たず、毛皮のない丸裸の体は寒さに耐えることもできない。そんな彼らを哀れんだプロメテウスは、太陽の火を盗み出して与えたのでした。
火があれば、寒さから逃れることが出来る。獲物の肉を焼くことが出来る。金属を融かして、強力な武器を創ることが出来る。
火を得た人類は強くなりました。全ての動物の頂点に立てるほどに。
プロメテウスの火。火とは、世界中の文化に共通して見られる通り、エネルギーの象徴です。
火を得た人類は強くなりました。この地球を支配できるほどに。そして、自分たち自身をも滅ぼすことができるほどに。
「プロメテウスの火」とは、現在、原子力エネルギーを指して使われる言葉です。
火を与えたプロメテウスが間違っていた、と言ってしまうことは簡単です。けれどそれは責任を他者に押し付ける卑怯な論理でしょう。技術には罪も功もない。いかに優れた「力」も、それだけでは意味など持ちません。その価値は使う者と使い方によって決まるのです。単なる炎でも、扱いを間違えれば火傷する、ただそれだけのことです。
真の叡智と理性のコントロールを受けない強大な「力」。それがどれほど危うく恐ろしいものか。その脅威を過去のものとすることは、残念ながら人類にとってまだ先と言わざるを得ません。
何しろ、世界で初めて、そして今のところ唯一他国の非戦闘員の頭上で核兵器を炸裂させた国である某超大国では、己さえ良ければ他はどうなっても構わないという考え方をする種類の人々が権力を握り、他国に向かって大量破壊兵器を持つな、さもなければお前の国に爆弾落とす、と言って回っております。自分とこが一番持ってるくせに。
こういう人たちをここへ連れてきて、資料館を見せてやりたい。まともな神経を持った人間なら分かるはずです。これは、人類が持っていい「力」ではないと。どんな理屈を付けようが、感情がそうなると思います。こんな結果が出なければ気付かないほど、人類は愚かだったけれど。未だに反省できない人間が、大勢いるけれども。
人間はプロメテウスの火の使い方を間違えました。その愚かさ故に、何十万という人が亡くなり、また今も苦しみ続けています。
この土地は人間の愚かさの象徴です。
けれど、人間はその愚かさに自ら気付き、正すことが出来る。
安らかに眠ってください。あやまちは繰り返しませんから………
この土地は、人間の愚かさと同時に、その希望の象徴として、今この時代、平和の尊さを訴え続けているのです。
………って、何だこの真面目な文章！！ 誰だ書いたの？！ 本当に私か？ 別人格とか出てきてないか？
すみません、真面目になりすぎて自分じゃないような気がしてきたので、ここから元に戻ります。所詮私はこっちが素。
広島。そう、日本人として、地球に生まれた人類として、一度は行かねばならないと思っていた土地でした。しかし、そこへこういう目的で行くことになるとは思いもかけませんでした、人生は驚きに満ちておりますな。ああ、猫は偉大なり。
８月１９日
バスが……朝の７時３０分発と９時３０分発とあったんですよね。公演は６時３０分からだから、どちらでも構わないといえば構わないんだけど、もちろん早く着いた方がいろいろ見て回れる。遅くすれば朝に余裕が出来る。
私が選んだのは前者でした。結果、朝５時起き。しかも前日…と言うか日付は既に当日だったんだけど、なかなか寝付けなかったせいで実質睡眠時間が４時間ほど。私はナポレオンじゃねえんだ。死ぬかと思った……
いっそのこと徹夜しようかとも思ったのですが、そんなことして耐えられずに寝てしまった場合起こるであろう悲劇を想定し、またその展開になる可能性が非常に高いことを鑑み（註：たまもはこの年で徹夜未経験）、その案は却下したのでした。
と言うか、おかげでバスに乗るまでの記憶が曖昧です。いやマジで。家を出たときまだ外が薄暗くて、駅に向かって歩いているうちに東の空が明るくなってきた憶えはあるのですが。ちなみにどうやら今回は、大阪駅で迷う前に乗り場に辿り着けたようです。三回目で迷ったら、本物のアホだけど。
しかし、意識が朦朧としていた割に昼食用のおにぎりはちゃんと購入していた辺り、人間の本能とは恐ろしいものですね。あれ、どこで買ったんだ？ ファミマってことは……駅前か？ うーん、やっぱり記憶がないわ……
バスの中ではほぼ寝ていたようです。途中で雨が降ってたような気はするけど、断片的にしか記憶がありません。吉備パーキングエリアで、桃太郎さんの像が立っていたのは憶えてるんですが……何じゃ、ありゃ……
……と、ここまで書いて気が付いたけど、考えてみれば新幹線使えばもっと早いんですよねえ。広島−新大阪間なんて２時間ほどなんだから。既に最初から考えに入っていなかったようです。ビンボーなんですもの……バスならほぼ半額なんですもの……とほほ。
そして広島到着。バスのルートが郵便貯金ホールの前を通っていたので、「おお、あれが」などと呟いておりました。劇場前に静岡から移住してきたら轤ｵい「ジェリクル・ボール」がちゃんと鎮座ましましているのも見えました。広島城の横も通ります。
広島駅新幹線口到着が１２時１０分。どうやら予定より１０分ほど早く到着したようでした。とりあえずホテルの位置を確認……隣がダイエーかい。別に良いけど……意地でも入るもんかい、と心に誓う私。いくら何でも哀しすぎます。ええ、ダイエーに恨みはありませんが、スーパー（いや、やはりここはダイエーというブランドか？）は哀しすぎます。外国に来たなら話は別かもしれないけど、同じ日本国内でね……
なんて言ってお前の食事なんて結局コンビニだろうというツッコミが聞こえてきそうですが、だって仕方がないのです。観劇などという時間の動かせない目的が主となった旅行である以上、他の観光なんかをしようと思ったら、食事のためにいちいち店に入ってゆっくりする暇がないんですもの。………とほほ。
とにかく劇場へのルートをチェック。と言うわけで、歩きました。地図を片手に。荷物提げて。重かった。そして暑かった……
はい、ツッコミは聞きません。「荷物くらい預けろよ」から「そもそも歩くな」まで、全て自主的に入れました！！ だから聞きません。聞くもんかー！！（馬鹿……）
さて。さくさく歩いていくと、広島合同庁舎がありました。それはいいんですが、そこにこんな電光掲示が出ておりましてね。
「ただいまの気温３０℃」
………そんなこと、知らしめてくれんで良いッ！！ よけい暑くなる！！
更に、
「ただいまの太陽光発電量１５ｋｗ」
………さよですか。それが多いのか少ないのか、私には分かりませんが。
よく分からないわ……広島……
いきなりよその土地に変な偏見を持ちかけたところで、さらなる偏見を誘発する物体が。
広島城の横を歩いていると、何やら眼鏡をかけたスーツ姿のおっちゃんの銅像が立っていたのです。こういうのはとりあえず確認せねば気が済まないタチですので、「何だ何だ」と寄っていって見てみたところ……
「内閣総理大臣 池田勇人像」
………池田勇人………どっかで聞いた憶えはあるけど池田勇人………日本史で出てきたっけか池田勇人………
あ。あれですか、確か所得倍増計画！！ 高度経済成長の！！ 広島出身の人なんですか？ 全然知りませんでしたわーごめんなさーい！（最低やね） しかし、何でこんなところに唐突に像が………
そう言えば、前に山口行ったときも、萩の町中にある銅像を面白がって見たものでした……さすがは明治維新の長州勢を産んだ土地だけあって、本当に町中にあるんですよ。いやあ、田中義一まであったからなあ……あんな微妙な奴まで……（問題発言）
その後劇場までの道を確認し（ホテルから徒歩３０分くらいだった）、とりあえず繁華街へ。劇場の周りは……はっきり言って、団地と学校しかなかったですね。
とにかく、暑かった……そして、サン○ルクカ○ェのゆずフロートは美味でした。蜂蜜入り柚子茶に柚子シャーベットが乗ってるの。暑くて疲れてるときは柑橘系に限りますね。
ゆずフロートでＨＰ回復して、紙屋町の本通商店街を歩いたんですが。ここ、上から垂れ幕の広告がたくさん下がってるんですね。
で、その中にありました。猫が。大阪から静岡経由で使い回されてるあの写真が。某超絶美形で有名なマンカストラップさんが、真ん中で歯ぁ剥いてる写真が。
………出てないくせに。いや、出演はしてるけど違う役のくせに。あそこまで目立ってて、露骨に客寄せ扱いなのに出てないなんて、ほとんど詐欺だぞお前！！（問題発言）まあ、それをいうなら更に横のミストさんは……いいや、もう。
しかし、タワーレコードとＨＭＶの広島店は、どっちもミュージカルサントラの品揃えがすごく少なかったぞー！！（何しに広島まで行ったんだお前） うーん、たくさんある梅田や難波のが珍しいのかなあ……？
そして、ホテルにチェックインして荷物を置き、ちょっと休憩すると再び観光にゴー。ここでどうしても「せっかく来たんだからいろい｢ろ見なければ損」という発想になってしまう自分が憎い。おのれ貧乏性……
そして。再び本通商店街をうろついていて、広島パルコ内のリブロにふらふらと入る私。なぜ、どうして広島まで来て書店に入る自分。今時本屋なんて、まして新刊書店なんて、日本国中どこへ行っても大して品揃えに差はないだろうに……
しかし、ここで思わぬものを見つけてしまった私は、広島と何一つ関係のないおみやげを母と妹に買うことになったのでした。何かというと、「タンタン」というフランスのコミックのキャラクターグッズです……安かったんです……ははは………このまま劇場行ったんだよ。かさばったんだよ。馬鹿野郎（自分に）。
今回の観光の主眼は平和祈念公園です。世界遺産原爆ドームです。何というか、万感胸に迫るとはああいう気持ちを言うのだなあと……
というわけで、冒頭の非常に真面目な考えに至るわけです。ああ、平和は尊い。つーか、平和でなければこんな遠くまでひとりで観劇旅行なんて出来るわけないし。それだけでも、平和の尊さは明らかですね。
さて。真面目になったところで。
広島東洋カープのホームグラウンドである広島市民球場は、この原爆ドームのすぐ向かいにあります。が、その前のバス停の名前は「原爆ドーム前」でした。カープに勝ったか、原爆ドーム。世界遺産の貫禄でしょうか。……いや、まあ、世界規模で観光客呼べるのは間違いなくこっちだわな……
実は私、このとき所持金が非常に心許ない状態でした。金曜日に銀行行けなかったもので。というわけで通帳とカード持って広島へ行ったのですが（馬鹿）、……広島の町中にU○J銀行がない！！ み○ほはやたらと見かけるのに、何故ないUF○！！ あんな最初の最初から大ボケかましてる○ずほなんかに負けてどうする○ＦＪ！！
何とか見つけて無事お金を下ろせてよかったよかった。いや、真剣な話、ここで見つけられなかったら、おみやげ代と猫グッズ代を差し引くと食費を一食２００円くらいに納めなければならなくなるところだったのですよ……ああ恐ろしい。
劇場でのことは観劇記にて。
帰り道、歩いていく方向がちょうど南西でして、行く手の空にとても明るい赤い星が見えました。おお、あれはただいま大接近中の火星！！ ６万年に一度の大接近だそうですね。惑星の公転軌道は楕円軌道だから、単なる内合では大接近にならないんですよね。何にせよ、火星儀やら天体望遠鏡やらが大売れだそうで結構なことでございます。
それにしても、火星綺麗だったわ。明るい明るい。ほんと、今ならアンタレスも敵じゃないですね！！（註※）
（註※）アンタレス
夏の星座の代表・蠍座のα星。アンタレスとはアンチ・アレス、すなわち「火星の敵」を意味します。かっこいい……個人的に、星の名前で一番好き。ちなみに次点が「昴」。美しい日本語ですね。
火星の敵と呼ばれるだけあって、見事なまでに赤い星です。これは、この星の表面温度が３０００℃〜４０００℃と低いため。表面温度が低い（＝放出するエネルギーが少ない）のにこれだけ明るいのは、星そのものが大きいためです。アンタレスは、いわゆる赤色巨星なのでした。確か、中心に太陽を置いてみると、火星軌道ぐらいまで飲み込む大きさだと聞いたことがあるような……あ、ちなみにもっと大きいベテルギウス（オリオン座のβ星）は、木星軌道まで飲み込むそうです。デカっ。
ちなみに火星が赤く見えるのは、本当に赤いからだそうで。土が赤いんだそうです。この星を「火星」と名付けた人（誰？）に乾杯。
惑星の名前って、英語名は全部神様の名前（ローマ神話の神様の英語読み）ですが、日本名は水・金・火・木・土までは五行に依ってる……んですよね、順番も合ってるし。外惑星（天王星・海王星・冥王星）は海外版（ウラヌス＝ウラヌス、ネプチューン＝ポセイドン、プルート＝ハデス）に対応していますが。
しかし、偶然なのか、「火」がこの星に当たったのは。戦の神マルスもかっこいいけど、やっぱり「火星」の方がシンプルにかっこいいわ。美しい日本語ですな！！
８月２０日
この日も朝から暑かった。広島は本当に良い天気でございました。静岡は二回行って二度とも降られたんですがね。うーむ、よその土地に変な偏見を抱きそうな気がするぞ。
ホテルをチェックアウトした後、広島駅のコインロッカーに大荷物を放り込み、再び観光にゴー。それにしても、何で一泊二日の旅行にあんなに荷物が多いんだ？ 本か？ 五冊ほど抱えてた本が悪いのか？（そんなに持って行くな！！）
今回、ちっとはまともなところも観ておきたくて、とりあえず縮景園という日本庭園に行ってみました。樹が多くて涼しくて良いところでございました。というか、結果的に涼みに行っていたような気が。
えー、広島藩主の浅野長晟さん（浅野……？ えーと、あの、松の廊下の人とはご親族ですか？）という方が別邸の庭として作ったものだそうで。元和６年というから江戸時代の初めですね。
もっとゆっくり出来たらきっともっといろいろ楽しめたのだわ……それはまあ、言っても詮無いことですが。
それからてくてく歩いて（私結局広島市内での移動手段徒歩オンリー……馬鹿……）広島城へ。毛利輝元さん（友達か）が建てたものだそうで。あ、いや、もちろん本物は以前から焼けたり壊されたりしていますし、原爆の爆心地にほど近い場所ですからこのときに完全に壊滅しているんですがね。
それはともかく、ここは中が博物館になっております。なかなか面白かったです。ＣＧで広島城の成り立ちを説明してくれるコーナーなど合ったりもしました。これまた、ゆっくり出来たらもっと楽しかったんだろうなああああ。言っても詮無いことですが……仕方ないのよ。一番の目的の時間が決まってるんだから仕方ないの……
と言いつつ実はこの後広島こども文化科学館なる施設にふらふら入っていた私。地学以外の理科系科目が壊滅状態だった割にこういうのは好きなんですね……。時間があればプラネタリウム（大好きｖ）観てきたものを。
夏休み中のガキどもに混じって遊んだ上（お前いくつだ）、「賢治の見た星空展」なる特別展示を見てきました。どうして広島で宮沢賢治なのかは謎ですが、綺麗でした。要するに星空の写真と宮沢賢治の作品を結びつけて並べてありまして、なかなか面白かったですね。よだかの星ってシリウスだったっけ？
ただひとつ、どうしても……この展示室、入り口にこんな文句がイラスト付きポスターになって張られていたのです。
「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」
………どなたがレイアウトなさったのか知りませんが、ブラックです！！ そりゃあれだろ、『注文の多い料理店』だろ？！ 何が出てくるんだと思ったぞ！！
いやあ。何となく入っただけなのにこんなネタが拾えるなんて。らっきー。せめて一食くらいはコンビニじゃないごはんが食べたかったので、広島風お好み焼きを食べました。おいしかったです。が、私としてはやはり関西風の方が慣れている分合うようです。でも、そばが入ってるのは面白いですね。
劇場へ向かう途中、広島城の横を前日に通ったのと反対側の道を通っていくと、池田勇人と同じような銅像が見えました。「瀬尾弘吉像」だそうです。竹下登が碑文を書いたりしているらしいんですが……誰？
観劇終了後、駅へ。しつこく徒歩。ええ、おかげで足に見事な靴擦れが出来まして（新品の靴を履いていたせいもあるな）、なかなか哀しゅうございました。
で、駅に着いて時刻表を見ますと、後１０分ほどで発車のひかりレールスターが！！ 全然全く鉄道マニアではない私ですが（でもスキンブルは好きよ）、これに乗っちゃえと手近の売店で思いっきり適当なおみやげを買ってホームへ直行したのでした。
レールスターはさすがに速かったです。新大阪まで２時間かかりませんでした。ただ、やたら混んでいて座れなかったんですよね最初……岡山で無理矢理ねじ込みましたが。しかしそれでも、立ったままで観劇メモを書いてﾄいた自分を、ちょっと褒めようかと思います。
というわけで、広島遠征記これにて終了でございます。読み返してしみじみと思うに、ほんと、何しに行ったんだ私……いや、猫観に行ったんですが………
でも、とっても楽しかったです！！ 暑かったけど。
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